2014年03月14日

「宴のあと」事件

こんにちは、いわさき司法書士事務所のミサカです。
昨晩の広島は大きく揺れました。深夜の地震は恐ろしいですね。
皆さまにおかれましては、大禍ございませんでしょうか。

* * *

さて先日三島由紀夫の「宴のあと」ですっかり湯冷めしたわたしですが、この作品、発表当時はその文学的価値よりも、日本初のプライヴァシー侵害を論じた訴訟でしきりに取沙汰され、小説としての評価はむしろ海外からのほうが早かったきらいもあります。かくいうわたしも、憲法と著作権法、学部のふたつの授業にてプライヴァシーと表現の自由というテーマで判例を扱いました。野口雄賢のモデルとされる元外務大臣有田八郎が訴えを提起した、いわゆる「宴のあと」事件です。

女主人公福沢かづをはじめ、保守党の大物政治家永山元亀や沢村尹など、主要な作中人物のモデルは吉田茂や岸信介ほかいずれも当代きっての名の通った人物であり、発表当時の人々にとっては登場人物ならびに作中の事件を現実に当てはめることは実に容易であったようです。明晰な観察力で人物と出来事、そして日本の政治的風土をつぶさにとらえた三島の筆は、作中人物の私生活のくだりまでにまるで“覗き見”しているかのリアリティと説得力をもたせ、大きな論議を呼ぶこととなりました。夫婦生活や閨の描写をもとに週刊誌等にはかなり赤裸々な記事も載ったようです。

「モデル小説」の芸術的表現とそのプライヴァシー侵害をめぐるこの裁判は、そもそも小説を俎上に置きプライヴァシーをとなえた点で、結果としてプライヴァシー権を日本で初めて論ずるにはいささか適切でなかったとも思えますが、「言論、表現の自由は絶対的なものではなく、他の名誉、信用、プライバシー等の法益を侵害しないかぎりにおいてその自由が保障されているものである」とした有名な判例を生むことになりました。

詳しい論はここで第一審判決や各種専門書に譲るとしますが、とにかく、バルザックに比さるるほどのその人物描写、なかでもあふれる情熱と無邪気な野卑さをもって献身と裏切りを軽やかになしてしまうかづの描写は、三島作品の中でも出色のように思います。また、三島が日本の政治的・社会的現実をみつめ描いた初期の作品としてもたいへん興味深く読みました。理想主義者としてのイメージが強烈な三島由紀夫ですが、情熱的な行動家である三島にとって、ロマンティストでありリアリストであることはたしかに矛盾なく両立(西尾幹二)したのでしょう。ひとことでいうと、三島由紀夫ってホンット頭よくってくそ真面目で難儀な(そして不遜ながら愛すべき)ひとだなって。笑

* * *

と、真面目風に「宴のあと」を取り上げてしまいましたが、三島作品ではわたしは中編「頭文字」がいっとう好きです。閨房の女性の脚を鶏の朒になぞらえるあたり。
なんだか筆が滑ってしまいましたが、本日はこのあたりで失礼いたします。
よい一日をお過ごしください。
ラベル:読書
posted by いわさき司法書士事務所 at 13:49| Comment(1) | 日記 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
とても参考になりました。これからの記事も楽しみにしております。もしお暇がありましたら私のブログにもお立ち寄りください。
Posted by 増田幸治 at 2014年05月25日 06:56
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